「往診センターで大切にしている3つのこと」~3つ目
今回のブログでは「往診センターで大切にしている3つのこと」のうち、3つ目の「患者さんを支える他職種との連携を大切にする」ということのお話をさせていただきます。
病院医療の目的が「病気の治癒と延命」であるのに対して、在宅医療の目的は「治らない病気を抱えながらも、住み慣れた場所でその人らしい生活が続けられるようにサポートすること」にあります。従って我々は、単に「病気」ではなく、病気をかかえた「人とその人の暮らし」にも目を向けることが大切だと考えています。また在宅においては病院のような医療チームだけでは不十分であり、ケアマネジャー、訪問看護師、訪問薬局、訪問リハビリ、ホームヘルパー、通所介護、通所リハビリなど暮らしを支える専門職とも連携することがとても重要だと考えています。
在宅医療における他職種との連携は、連携先の数の多さもさることながら、連携先が、病院の場合のように常に同じ屋根の下に居るわけではないことや、連携先と経営母体や組織理念が異なっていることなどがあり、連携のための業務負担は病院とは比べものにならないくらい大きなものです。しかしながらそれでも「患者さんが病気を抱えながらも、住み慣れた場所でその人らしい生活が継続できるようにする」ためには、暮らしを支える他職種との連携だけは絶対手を抜けず、今後もスタッフ一丸となり取り組んでいきたいと考えています。
2020年6月
往診センター所長
「往診センターで大切にしている3つのこと」~ふたつ目~
前回のブログでは「往診センターで大切にしている3つのこと」のうち、ひとつ目の「病気をみるのではなく、その人をみる」ということを紹介させていただきました。今回はふたつ目の「患者さまや家族の抱える不安や負担にも向き合う」ということをお話しさせていただきます。住み慣れた場所でできるだけ長く心穏やかに過ごしていただくためには、病状の安定をはかるだけでは不十分です。老いや病状が進行する中で感じておられるさまざまな不安に目を向ける必要があると考えます。現実的には、どうして差し上げようもない不安もありますが、そのような時でも気持ちだけはしっかりと支えていきたいと考えています。不安に加えて、ご家族が感じておられるさまざまな負担感にも目を向ける必要があると考えます。ご家族が体力的にも精神的にもゆとりをもって介護できるようにすることは、ご家族にとってだけではなく、患者さまの療養においても良い効果を生み出すと考えます。単に在宅で療養できればよしとするのではなく、在宅で安心して、笑顔の多い療養生活を過ごしていただけることを目標として日々、診療を行っていきたいと考えています。
2020年2月
上林医師
#左京 訪問診療
#左京 往診
#左京 在宅
#左京 医療
父と高次脳機能障害とトランス脂肪酸と
勤務が昼までの時は、デイケアから帰って来た父と一緒に、近くのスーパーで夕食の買い出しをする。「昼は何食べた?」と聞くが、なんやったかなあと彼は首をかしげる。短期記憶が障害されているのでまあ覚えていないだろうな、と思いながら、いつも同じ質問をする。ふと、何事もなかったかのように、彼に記憶が戻るのを期待しているかのように。
父は趣味であるランニング中に突然心室細動を起こしAEDで蘇生した。低酸素血症から脳の一部を傷害して「高次脳機能障害」と診断された彼は、まるで子供だ。一緒に買い物に行ったときは欲しいものの前でじっとしたまま動かない。「おっこれ安いやん」と叫ぶのは、たいてい生ギョーザの前だ。刺身のコーナーの前では、じっと刺身を見つめたまま動かなくなる。先日は、イワシの前で彼が動かなくなったので、100円で山盛り入ったイワシを購入し、醤油と味醂と生姜と梅干しで煮た。「何食べたい?」ときくと、たいてい「なすび」と答えるので安くて助かる。
料理を盛り付けて机に運ぶと、「わっごちそうや。おいしそういただきまーす」と我々に構わず一人で食べ始める。味に文句を言ってこないところは人ができているのだろうが、残念ながら、味に頓着しないのは貧しい地域で生まれ育ち食べ物に苦労して来た人生を過ごしてきたからに違いない。私は、ラーメン屋を経営していたこの人が、ギョーザとラーメンと好物の焼き茄子と、子供が自立した後は主に冷凍食品で生きてきたことを知っている。
喫煙もせず、大きな病気もなく、肥満でもない、むしろトライアスロンに出たり自転車で日本一周を実現するくらいのスポーツマンだった父が狭心症を起こしたのは、私が大学を卒業し南の島で研修医として働き始めてすぐのことだった。父はその時、ラーメン屋を畳んで冷凍食品を運ぶトラックの運転手をしていた。
「ちょっと動くと胸がぎゅーっと重くなるのだが、これはなんだ」と、ある日父から電話がかかって来た。よくよく話を聞くと、典型的な狭心症発作だった。
「電話を切って、すぐに病院に行け。そうしないと心筋梗塞で死ぬぞ」と、私は父に言った。仕事が忙しくてなんとかかんとかなどと言っていたが、最終的には病院に行くことを了承し、結果的にはみごと冠動脈に狭窄が見つかった。あと少しで閉塞し、心筋梗塞に至る一歩手前だった。完全に詰まってしまう手前で冠動脈にステントを入れ、彼はこの世に生還した。
「なんでこんなことになるんや?」と、まだ正気だった彼は私に聞いた。確かに、彼には心臓病のリスクファクターは全くなかった。高脂血症でもなく、糖尿病でも高血圧もなかった。先に書いたように、肥満もなく喫煙もしていない。まったくリスクはなかった。
「まあ、そういう人もおるわ。喫煙したことないのに肺がんになったり、お酒一滴も飲まないのに肝臓壊す人もおるやろ」と、私は疫学者が聞いたら卒倒するような詭弁を言った。だが、研修医になったばかりの当時は本当にわからなかった。なぜ彼が、狭心症になったのか。
あれから時も経ち、臨床経験も積んだ今ならわかるようになった。全く、学校では大切なことは学ばないものだ。今ならわかる。
冷凍食品、及びそれに多く含まれる揚げ物のせいだ。父はコレステロール値も高くなかったのだがら恐れ入る。トランス脂肪酸の恐ろしさを父で思い知らされることになるとは思わなかった。
私はもともと揚げ物料理をすることが少なかった(めんどくさいからです笑)が、トランス脂肪酸の勉強をしてから、揚げ物をできるだけ避けるようになった。もちろんスナック菓子や揚げパンもである。友人と外食するときは食べることもあるが、それ以外では意識的に避けている。
そういうわけで、父の食卓に揚げ物はない。なので、今後彼は長生きするだろうな、などと考えている。もちろんストレスフリーな生活をしている、ということも後押しするが。
T医師
#左京 往診
#左京 在宅
#左京 医療
新年あけましておめでとうございます。
往診センターでは「病気をみるのではなく、その人をみる」ということを大切にしています。当然のことですが、人の人生をみることは、病気をみるときの「治療して退院」のようにスマートにはいきません。いったん安定されても、必ず不安定な時期がまた訪れます。安定されていても、今後訪れるであろう不安定な時期に備えて、患者さんの思いをしっかりと聞き、また伝えるべき情報はしっかり伝えておく。不安定な時期が来れば、これまで積み上げてきた対話と信頼関係を存分に生かして支援する。このような関わりを最期の日までくり返すことが「その人をみる」ということなのだろうと思っています。
日々忙しくとも、地域のたくさんの患者さんや、連携機関の皆様からいただいてる信頼に感謝の気持ちを持ちつつ、本年も頑張って参りたいと思います。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
京都民医連あすかい病院 往診センター長 上林 孝豊
#左京 訪問診療
#左京 往診
#左京 在宅
#左京 医療
精神疾患をかかえる方々を地域で支える
11月20日18時からあすかいほっとスペースにて「精神疾患をかかえる方々を地域で支える」というテーマで当院副院長、精神科の近藤悟先生にご講演いただきました。地域の居宅介護支援事業所や訪問看護ステーションなどの計16事業所から総勢40名以上の方々が参加してくださいました。
講演内容は精神疾患を疑う患者さんを目の前にしたとき、どういう点に着目して話しや観察を行い情報収集をすればよいか、精神疾患をかかえた患者さんを診療する際の援助のしかたやコミュニケーションをとる上での留意点、地域で精神疾患を支援していくための制度や枠組み、最後には最近TopicsのオープンダイアローグやACTに関してお話しいただきました。精神疾患を抱えながらも地域の輪の中で、その人らしく暮らせるような地域作りに役立てていただければと思っています。近藤先生、ご参加いただきました皆様、この度は誠にありがとうございました。
K
#左京 在宅
#左京 訪問診療
#左京 病院