京都民医連あすかい病院 往診センターのブログ

京都民医連あすかい病院の訪問診療を担う、往診センターのブログです。

着物と私

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きもの古典柄

 昨年、学位(博士号)を取得した。学位授与式が済んでから、博士号のために空けていた曜日で何かしようと思い立った。

 私が選んだのは、着付教室だった。

 かねてより和装には興味があった。海外で三年間生活してきて、外国人が着物に関心を持っているし、kimonoというのが英語として通じるのも知っている。母の実家が昔呉服屋をしていて、女孫は私一人。まさにぴったりの選択ではないか。

 右も左もわからない状態での着付け教室選び。色々あったが、最終的に素敵なお教室に巡り合うことができた。先生がとても素晴らしい方だ。

 毎週一時間半のお稽古の後、お教室でそのままお稽古以上に盛り上がっているかもしれないティータイム。先生は、ご自分がお舅さんを介護された経験などもお話してくださり、とてもためになった。

 はっきり言って私は上達が遅く、先生は「このままで直近の目標(友人の結婚式に訪問着を着て参列する)が達成できるだろうか」と危ぶんで下さっていた。

 でもまあ、背水の陣で臨んだ当日。冷や汗をかきながらもひとりで何とか着ることができ、友人の新しい門出をお祝いすることができた。恐らく気が気ではなく心配してくださっていたであろう先生に、自分の和装姿の写真をLINEで送り、「安心しました」と返信いただいた。その後もお稽古は続き、初級コースも中級コースも実技・筆記試験ともになんとか合格してきた。現在は上級コースで通っている。

 往診の患者さんも認知症になるまでは着物姿でよく出歩いてらしたという男性がいらっしゃった。着物に対して、徐々に根拠のない自信を付けた私は、彼が入院中に「着物を着てもらおう!」と企画した。夫人に着物を持ってきてもらい、立位のとれない患者さんをリハビリスタッフに支えてもらい、往診センター事務Tさん(着物の達人)に帯結びをしてもらった。えっ、私は何をしたか?見守っていただけで何もしなかったかも(笑)。

 短期記憶は失っても、正絹の匂いと肌触りを覚えてらしたこの方は「脱がへん!」と意味のある主張をした。大文字山を背景にした記念撮影後もデイルームで着物を着たまま車椅子で居眠りされてる姿は、どこか満足げだった。

 この患者さんはその後逝去されたが、男性の着物を見るたびに私の脳裏に蘇る。合掌。

 

M医師

 

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