京都民医連あすかい病院 往診センターのブログ

京都民医連あすかい病院の訪問診療を担う、往診センターのブログです。

世に棲む患者

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 中井久夫という精神科医の本に「世に棲む患者」というタイトルの本があります。訪問診療をしている最中、この言葉がふと頭に浮かぶときがあります。大抵は、それなりの症状や障害、こちらからすると問題に思えそうなことがありながらも、患者さん達がめいめいのスタイルで生活をされているのを垣間見たときにこの言葉が浮かんでいるようです。

 ところでこの「棲む」と「住む」の違いをあらためて辞書で調べてみると、「住む」は「所をきめて、そこで生活する」の意で、「棲む」は「動物が巣を作ってくらす」ということになっています(旺文社国語辞典)。ですので本当は「棲む」と表現したら失礼なのかもしれません。しかし実際患者さんの家に行くとどうも「住む」よりは「棲む」の方がしっくりくるときもあります。これは患者さんが色々と大変なことがありながらも実生活を営んで「住ん」でおられるだけでなく、誰かに気兼ねするでもなくひっそりと自分が大切にしているささやかな生活の仕方を「自分の居場所=巣」を中心に守っている、といったイメージが浮かんでくるせいかもしれません。

 訪問診療に行くようになって3年(たしか…)ほどになりますが、私としてはあまり違和感なくこの仕事ができています。むかし一緒に住んでいた祖母のところに定期的に往診医が来ていたのを間近で見ていたせいかもしれません。今は訪問される方ではなく訪問する方のなですが、私にとって訪問診療は懐かしい世界の一つで、あちこちまわった末に戻ってきた感じもするのです。

K医師